今、青木健著『ペルシア帝国』(講談社)を読んでいる。現在のイランの地に古代栄えた二つのペルシア帝国「アケメネス朝」と「サーサーン朝」について書かれている本だ。このうちアケメネス朝は聖書に出てくる「ペルシア」のことであり、聖書を学ぶ上では非常に重要である。
ところがこの本、その「アケメネス」の名が出てこない。その代わり、目次を見ると「ハカーマニシュ朝」なる聞き慣れない、舌を噛みそうな名前の王朝が出てくる。「?」と思い本文をめくってみると、何と「アケメネス」はギリシア語での発音であり、「ハカーマニシュ」が本来の古代ペルシア語での発音であるようだ。言われてみれば、「アケメネス」と「ハカーマニシュ」、何となく似ている。「ハカーマニシュ」が訛れば「アケメネス」になるのかな、というのは、まあ何となくわかる。ところが、この「ハカーマニシュ朝」の歴代の王たちの名前がまた、あり得ないような訛り方をしているのだ。
聖書に出てくる主なペルシア王は以下の4人である。まず「キュロス」。新改訳旧版では「クロス」であった。ユダヤ人たちをバビロン捕囚から解放し、祖国に帰らせた王である。彼のペルシア名は「クールシュ」だ。この辺はまだ不思議ではない。
次に「ダレイオス」、新改訳旧版では「ダリヨス」。ダニエルと獅子のエピソードに出てくる王だ。この王のペルシア名は「ダーラヤワウシュ」である。似てはいるが、覚えられない。
ここまではほんの序の口である。エステルを妃にした王、「クセルクセス」。新改訳旧版では「アハシュエロス」……って、この時点で全く異なっているではないか。「クセルクセス」はギリシア語なのに対して、「アハシュエロス」はヘブライ語らしい。では問題のペルシア語ではどう呼んでいたかと言うと、「クシャヤールシャン」。もう、滅茶苦茶である。どこをどう伝播したらこの3つに変化するのか理解に苦しむ。
最後が、ネヘミヤに城壁再建を許可した「アルタクセルクセス」王だ。新改訳旧版のヘブライ語名は「アルタシャスタ」である。先の「クセルクセス」に「アルタ」が付いたような形なので、ペルシア語だと「アルタクシャヤールシャン」なのかと思いきや、正解は「アルタクシャサ」。何だかよくわからないのだが、「アルタ」だけは全部共通している。
聖書では、ペルシアの王たちは概ねユダヤ人たちに好意的・協力的な善王として描かれている。そんな彼らも、本書によれば最期は戦死していたり、王家の簒奪(乗っ取り)があったり、近親婚が常態化していたり(エステルが王妃になれたのは実に奇跡的、神の摂理である)、また違った面が見えてきて興味深い。
ところで、聖書でペルシアについて言及されている一番古い時代の記録は、エゼキエル38:5であろう。いわゆる「エゼキエル戦争」の箇所だ。世の終わりに、ロシアと思われる北の大国が連合国を率いてイスラエルに攻め込むという預言である。その連合国の筆頭に名を挙げられているのがペルシアだ。だが、エゼキエルの時代、ペルシアはまだ歴史の表舞台に登場していない名もなき小国であった。なぜ、そんなペルシアがこんな目立つ位置に言及されているのか。現在、ペルシアことイランがイスラエルに対して激しい敵意を抱き、ロシアと深い同盟関係を築いていることを考えれば、歴史を支配される神の摂理を思わずにはいられない。

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